問題社員42 自律的な判断ができず指示された仕事しかしない。

1 「指示待ち人間」とは

 1981年にも,言われたことはこなすが言われるまでは何もしない新入社員を表現する造語として,「指示待ち世代」「指示待ち族」といった言葉が流行したことがあります。現在においても,命令したことしかしない,あるいはしようとしない若者の対応に頭を悩ませる管理職は多く,そういった若者は「指示待ち人間」等と呼ばれることがあるようです。
 新人社員が,上司から言われたことしかできないといった程度の話であれば,昔からよくあることで,大きな問題ではありません。今後,経験を積んでいく中で,社員としてあるべき心構えを身につけ,仕事を覚えてもらえばいいだけの話です。
 しかし,新入社員でもないのに,いつまでたっても上司が指示しないと行動しないような社員は,戦力として多くを期待することはできません。このような社員が増えてしまったのでは,会社が競争を勝ち抜いていくことは困難でしょう。会社としては,自律的に自分の頭で考え,行動することができる社員を育成していかなければなりません。

2 「指示待ち人間」への具体的対応

 「指示待ち人間」を減らす最も有効な方法は,社員が取るべき行動規範を明示することです。社員の従うべき行動規範が明確であればあるほど,社員は自律的に論理的な判断がしやすくなります。他方で,社員が従うべき行動規範が不明確であればあるほど,社員が論理的な判断をすることは困難となり,その都度,上司の指示を仰がざるを得なくなってしまいます。
 社員が取るべき行動規範を明示する具体的方法としては様々な方法が考えられますが,例えば,社内の問題の解決方法について決定する会議に社長や役員だけでなく,できるだけ多くの管理職も参加させるようにし,会議で決定された解決方法の結論や決定プロセスについて把握できるようにすることなどが考えられます。会議に参加した管理職は,会議で決定された結論とその決定プロセスを前提として,部下の指導教育を行っていくことになります。
 定型的な事項については,マニュアルを作成するとよいでしょう。マニュアルは何か融通が利かず役に立たないものであるかのように思われがちですが,そうではありません。マニュアルが存在することにより,定型的な事項の判断に迷うことがなくなり,大幅に時間や労力を節約することができます。定型的な事項について時間や労力を節約することができれば,実質的判断が必要な難しい重要問題に時間や労力を集中させることができるようにもなります。マニュアルを作成する過程で議論することにより,より良い結論を導くこともしやすくなりますし,マニュアルを紙に書いて文書化することにより,マニュアルの内容の妥当性を検証しやすくもなります。
 自律的な判断ができる部下を育てるためには,部下に自律的に判断して仕事をする経験を積ませる必要があります。会社が明示した行動規範から結論を論理的に導くことができるような社内システムができているのであれば,自律的に考えて行動することがしやすくなります。もちろん,最初はちぐはぐな対応になってしまうこともあるとは思いますが,人は間違えながら憶えていくものです。部下の相談に乗りつつも,できるだけ部下が自分の力で仕事をこなせるよう導いてあげて下さい。
 部下の提案が採用できない場合は,論理的な理由を明示した上で,不採用として下さい。不採用の理由を明示してあげられれば,そこから部下は論理的に考えて,上司に採用してもらえる内容の提案をしやすくなります。上司が,部下の提案の採用不採用の理由を論理的に説明することができず,上司の判断がブラックボックスのようになっていると,部下に判断基準が伝わりませんから,いつまでたっても部下は自律的に判断することができないことになってしまいがちです。
 部下が指示された仕事しかしようとしないという管理職の愚痴は,ずいぶん前からありました。いちいち指示しなくても,部下が自分の頭で考えて仕事をできるようになって欲しいという上司の思いは,いつの時代も変わらないようです。他方で,部下が自律的に判断できるようにする管理職の努力が十分であるかというと,必ずしも十分ではないように思えます。管理職としては,どうしても,部下が自分の努力で自律的判断ができるようになって欲しいと考えがちです。部下が自律的判断をすることができるよう導いてあげることも上司の仕事,責任だということを,再確認する必要があります。
 自律的な判断ができないことを人事考課上考慮することはできますが,企業秩序を乱したわけではないので懲戒処分に処することはできませんし,通常は解雇することもできません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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