問題社員41 再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

1 再雇用後の賃金水準に対する規制

 高年法上、継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく、年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的、パート労働法8条、労契法20条、最低賃金法等の強行法規、公序良俗に反しない限り、就業規則、個別労働契約等において自由に定めることができます。
 定年後に再雇用された社員の賃金水準が定年退職前よりも下がるのはむしろ通常の話であり、社会通念に照らし、直ちに不当ということはできません。定年の延長や継続雇用の場合は手順を間違えると労働条件の不利益変更(労契法9条・10条参照)の問題となってしまうリスクがありますが、再雇用の場合はいったん定年退職し新たな労働契約を締結するわけですから、定年退職前の労働条件との関係では労働条件の不利益変更の問題とはならないと考えられます。
 もっとも、就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合はそれが労働条件となりますから、再雇用後の労働条件を就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。

2 再雇用後の適正な賃金水準

 年金支給開始年齢が引き上げられていることを考慮すれば、賃金原資に余裕がない企業であっても、同業他社と同水準の賃金が払えないから再雇用自体を拒絶せざるを得ないといった発想で対処するのではなく、再雇用自体は認めた上で、体力に応じた金額の賃金を支給するようにすべきでしょう。
 再雇用後の業務の内容、当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が定年退職前と変わらないにもかかわらず、再雇用後の賃金が定年退職前よりも大幅に下がったのでは高年齢者の不満が大きくなりますから、賃金額を大幅に下げる場合は、再雇用後の勤務日数や勤務時間数を減らすとか(例えば週3日勤務にするとか1日4時間勤務にするといったことも考えられます。)、業務の内容を正社員でなくてもできるような難易度の低いものにするとか、責任の軽い仕事を担当させるとか、職種や勤務地を限定するとかした上で、賃金額を下げる必要があります。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が、年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策、年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上、継続雇用後の賃金額に在職老齢年金、高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が、従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり、賃金原資に余裕がない会社であっても、「時給1000円、1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。一定規模以上の会社の場合は、再雇用後の賃金水準は、定年前の50%~70%程度になることが多いようです。賃金原資に余裕があるのであれば、同業他社よりも高めの賃金設定でも構いません。

3 定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合

 高年法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではありません。事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、定年退職者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に定年退職者が再雇用されなかったとしても、高年法違反となるものではありません。
 企業が定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合は、再雇用されなかったとしてもやむを得ないところです。企業ができることは、自社の体力、定年退職者の能力、再雇用後の業務の内容、当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等に見合った適正水準の賃金等の労働条件を提示するところまでであり、当該労働条件での再雇用を希望するかどうかは、定年退職者の選択に委ねられることになります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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