問題社員37 ソーシャルメディアに問題映像を投稿する。
目次
1 ソーシャルメディアへの問題映像の投稿を防止するための事前対応
ソーシャルメディア上の情報は拡散しやすいため、元の問題映像の投稿を削除しても、ソーシャルメディア上の情報を完全に消去することはできなくなることがあります。ソーシャルメディアには文字だけでなく映像を公開することができるものも多く、映像が極めて強いインパクトをもたらすことがあります。強いインパクトをもたらした映像に関し、後から弁解して信頼を回復することは難易度が高いです。したがって、ソーシャルメディアへの問題映像の投稿の対応としては、事前の対策を中心に考えていく必要があります。
また、ソーシャルメディアに対する問題映像の投稿には悪意がなく、問題映像に伴うリスクを理解していないために行ってしまっているものも多い印象です。仲間内でのコミュニケーションに過ぎないと考えていて、全世界に向けて情報発信しているという意識が低いケースは珍しくありません。したがって、ソーシャルメディアに対する問題映像の投稿がもたらす大きなリスクを理解させることが重要となってきます。
具体的には、
① ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを作成すること
② ガイドラインの遵守義務を就業規則で規定すること
③ ガイドラインに違反したことを懲戒事由として規定すること
④ ガイドラインを遵守する旨の誓約書を取得すること
⑤ ソーシャルメディアの適切な利用の仕方やガイドライン遵守の重要性について研修などで教育すること
⑥ ソーシャルメディアの適切な利用の仕方やガイドライン遵守の重要性について普段から注意指導すること
等が考えられます。
上司が部下に対して必要な注意指導ができないと、部下が上司を軽く考えて、行動がエスカレートしやすくなります。部下の勤務態度等に問題がある場合に、上司が部下に対ししっかりと注意指導することは、問題映像の投稿を防止することにもつながります。
最近ではアルバイトによる問題映像の投稿が事件となることが多くなっています。アルバイト等の非正規社員は正社員と比較して会社に対する忠誠心が低い傾向にあります。学生アルバイトの場合は、社会経験が乏しくて思慮が足りない傾向にあります。アルバイト等の非正規社員については、むしろ正社員以上に注意指導教育していく必要性が高いといえるでしょう。
2 ソーシャルメディアに問題映像が投稿されているのが見つかった場合の初動
ソーシャルメディアに問題映像が投稿されているのが見つかった場合、まずはその問題映像と記事をプリントアウトしたり、PDFの形式で保存したりして、証拠を確保します。
次に、ソーシャルメディアに投稿された映像が会社にとって好ましくない内容かどうかを検討し、好ましくない内容のものであれば、投稿した社員・アルバイト等と話し合って削除させるべきでしょう。当該社員・アルバイト等が在職中であれば最終的には映像の削除に応じてくれる可能性が高いのではないかと思います。
映像の内容が単に好ましくないというにとどまらず、会社の名誉・信用を著しく侵害している場合は、当該社員・アルバイト等の懲戒処分や損害賠償請求等の対応を検討する必要があります。当該社員・アルバイトが記事の削除を拒んでいるような場合は、ソーシャルメディアの運営者に対する記事の削除請求等を検討する必要もあるでしょう。
3 事実調査
懲戒処分や損害賠償請求等を行う前提として、事実関係を十分に調査する必要があります。問題映像を確保した後の事実関係の調査としては、本人からの事情聴取が中心となります。当該社員・アルバイト等が問題映像を投稿したということで間違いがないか、動機・目的、会社が発見した問題映像以外の投稿の有無等を聴取して書面にまとめます。聴取書は、当該社員・アルバイトに内容を確認させてから、その内容に間違いない旨記載させます。
本人に事情説明書・始末書等を作成させて提出させるという方法も考えられますが、重要な事実関係の確認については、十分な事情聴取を行い、漏れがないようにしておく必要があります。問題映像の投稿を行った社員・アルバイト等が作成・提出した事情説明書・始末書等の内容が不合理・不十分だったとしても、突き返して書き直させたりせずに、受領して会社で保管して下さい。事実関係の解明に役立つこともありますし、本人が不合理な弁解をしている証拠にもなります。不合理・不十分な点については、別途、追加説明を求めれば足ります。
4 謝罪
問題映像の投稿がインターネット上で拡散したり、ニュース報道されたりして会社に対する批判が高まった場合は、ホームページ上で謝罪するなどの対応が必要となります。謝罪内容としては、アルバイトを含む社員教育を徹底し、再発防止に全力を尽くすこと等を約束することが多いところです。
5 懲戒処分
問題映像投稿の悪質性の程度に応じて、懲戒処分を検討します。労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められており、懲戒事由に該当する場合であっても、懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
懲戒処分が有効となるかどうかを判断するに当たっては、投稿した問題映像の内容のほか、問題映像の投稿を禁止する企業秩序がどれだけ厳格に形成されていたかも重視されます。同じような問題映像を投稿したとしても、ソーシャルメディアへの利用に関するガイドラインが存在するか、ガイドラインの遵守義務が就業規則で規定されているか、ガイドラインに違反したことが懲戒事由となる旨特に明記されているか、ガイドラインを遵守する旨の誓約書が存在するか、ガイドライン遵守の重要性について研修などで教育しているか、ソーシャルメディアの利用に関し普段から注意指導しているか等により、結論が分かれる可能性があります。
軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く、訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが低いケースが多いですが、退職の効果を伴う懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については、訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが高まりますので、慎重に検討する必要があります。本人が自主退職を求めてきた場合には、敢えて懲戒解雇等の処分まではせずに、自主退職を認めるべきケースもあるのではないかと思います。
6 損害賠償請求
問題映像の投稿により会社が損害を被った場合は、書き込みを行った社員・アルバイト等やその身元保証人に対し、損害賠償請求をすることも考えられますが、損害の性質上、損害額の立証が困難なことが多いところです。
賠償を求めることができる損害の範囲は、原則として通常生ずべき損害に限られ(民法416条1項)、特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときに限り、その賠償を請求することができます(民法416条2項)。食材廃棄に伴う損失とか店内の清掃・消毒作業の費用であれば、通常損害として相当因果関係が認められる可能性が高いものと思われます。他方、店舗の営業を停止・閉店した場合の休業損害・事業閉鎖に伴う損害まで損害賠償請求が認められる事案は限定され、仮に損害賠償請求が認められたとしても賠償額はその一部に限定される可能性が高いものと思われます。
裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため、損害額の立証ができない場合であっても、損害が生じていることの立証ができれば、相当な損害額は認定してもらえる可能性もありますが、認定してもらっても思ったほどの金額にならないケースも十分に想定されます。
労働契約の不履行について違約金を定め、損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条)、社員・アルバイト等が問題映像を投稿した場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。
7 ソーシャルメディアの運営者に対する削除請求・損害賠償請求等
問題映像を投稿した社員・アルバイト等が問題映像の削除を拒んでいる場合は、ソーシャルメディアの運営者に対し、問題映像の削除を請求することも考えられます。ソーシャルメディアの運営者は、一定の場合には、問題映像を削除する条理上の義務を負うものと考えられます。
プロバイダ責任制限法3条1項が、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、かつ、運営者が当該問題映像の投稿によって他人の権利が侵害されることを知っていたか、知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ、ソーシャルメディアの運営者は損害賠償責任を負わない旨定めていることからすれば、ソーシャルメディアの運営者が問題映像の投稿を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、かつ、運営者が当該問題映像の投稿によって他人の権利が侵害されることを知っていたか、知ることができたと認めるに足りる相当の理由があることを主張立証できるようにしておく必要があります。ソーシャルメディアの運営者に対し問題映像の削除を請求するに当たっては、削除すべき問題映像を明示するとともに、問題映像の投稿により会社の名誉・信用等が侵害されていることを具体的に説明するようにして下さい。
ソーシャルメディアの運営者に対し、削除すべき問題映像を明示するとともに、問題映像の投稿により会社の名誉・信用等が侵害されていることを具体的に説明して問題映像の削除を請求したにもかかわらず、ソーシャルメディアの運営者が問題映像を削除しない場合には、問題映像を書き込んだ社員・アルバイト等とソーシャルメディアの運営者を共同被告として訴訟を提起し、問題映像の削除を請求したり、損害賠償請求したりすることも検討せざるを得ません。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎