問題社員21 管理職なのに残業代を請求してくる。
目次
1 管理職≠「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)
管理職であっても、労基法上の労働者である以上、原則として労基法37条の適用があり、週40時間、1日8時間を超えて労働させた場合、法定休日に労働させた場合、深夜に労働させた場合は、時間外労働時間、休日労働、深夜労働に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
当該管理職が、労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば、労働時間、休憩、時間外・休日割増賃金、休日、賃金台帳に関する規定は適用除外となりますので、その結果、労基法上、使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが、裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは、本社の幹部社員など、ごく一部と考えられます。
中小企業の場合、管理監督者の実態を有する管理職は、取締役とされていることも多い印象です。
通常は、管理監督者扱いとすることで残業代の支払義務を免れることができると考えるべきではありません。
2 管理監督者と深夜割増賃金
管理監督者であっても、深夜労働に関する規定は適用されますので、管理職が管理監督者であるかどうかにかかわらず、深夜割増賃金(労基法37条3項)を支払う必要があることに変わりはありません(ことぶき事件最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。
3 管理職からの残業代請求に対するリスク管理
管理監督者としていた社員から労基法37条に基づく割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は、管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定し、その他の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わずに残業代を満額支給し、基本給や賞与等の金額を抑えることで、総賃金額を調整したほうが無難かもしれません。
4 管理職本人が残業代不支給に同意していたり、就業規則で管理職には残業代を支給しない旨定めたりした場合
労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効となり、無効となった部分については労基法で定める基準が適用されます(労基法13条)。
就業規則等で管理職には残業代を支給しない旨規定したり、管理職本人が残業代不支給に同意したりしていたとしても、直ちに残業代の支払義務を免れるわけではありません。
5 管理監督者の判断基準
管理監督者は、一般に、「労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ、管理監督者であるかどうかは、
① 職務の内容、権限及び責任の程度
② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無、労働時間管理の程度
③ 待遇の内容、程度
等の要素を総合的に考慮して、判断されることになります。
6 ①職務の内容、権限及び責任の程度
①職務の内容、権限及び責任の程度を検討するにあたっては、労務管理を含む事業経営上重要な事項にかかわっているか、事業経営に関する決定過程にどの程度関与しているか、現場業務(管理監督以外の仕事)にどの程度従事していたか、他の従業員の職務遂行・労務管理に対する関与の程度、管理監督者として扱われている社員の割合等が考慮されます。
7 ②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無、労働時間管理の程度
②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無、労働時間管理の程度を検討するにあたっては、タイムカード等による始業終業時刻管理の有無、欠勤控除の有無等が考慮されます。
8 ③待遇の内容、程度
③待遇の内容、程度を検討するにあたっては、役職手当や賃金の額が役職に見合っているか、社内における賃金額の順位、管理職になった後の賃金総額と管理職になる前の賃金総額との比較等が考慮されます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎