問題社員2 遅刻や無断欠勤が多い。
1 勤怠管理
遅刻や無断欠勤が多い社員の対応として最初にしなければならないことは、遅刻や欠勤の事実を「客観的証拠」により管理することです。客観的証拠が存在しないと、遅刻や欠勤の立証が困難になることがあります。
遅刻時間の管理は、タイムカードや日報等を用いて、通常の労働時間管理をすることにより行います。
欠勤日数の管理は、タイムカードの打刻や日報の提出がないことを確認しつつ、欠勤届を提出させることにより行います。
2 原因の調査
次に、どうして遅刻や無断欠勤が多いのか、その原因を調査する必要があります。
なぜなら、遅刻や無断欠勤が多い原因としては、大きく分けて、
① 体調不良
② だらしない
の2つがあり、原因がどちらかにより、対処法が違うからです。
体調不良のため遅刻や無断欠勤が多い場合は、残業を禁止したり、医師への受診を促したり、休職命令を検討したり、傷病手当金の申請を促したり、普通解雇を検討したりする等、体調不良の社員に対する通常の対応を行います。
他方、社員の体調に問題はないのに、単にだらしないため遅刻や無断欠勤が多いような場合は、注意指導等の問題社員に対する通常の対応を行います。
3 注意指導
だらしないため遅刻や無断欠勤が多い社員については、十分に注意指導して、正当な理由なく遅刻や欠勤をしてはいけないこと、やむなく遅刻や欠勤をする場合は速やかに会社に連絡する必要があること等を理解させ、正当な理由のない遅刻や無断欠勤をなくす努力をして下さい。
注意指導の主な目的は、
① 正当な理由のない遅刻、欠勤をなくすこと
② 証拠の確保
の2つです。ポイントは、
① 正当な理由のない遅刻、欠勤をなくすこと
が一番の目的であって、
② 証拠の確保
を一番の目的にしてはいけないということです。
確かに、注意指導したことを立証するための証拠を確保しておく必要はあります。しかし、正当な理由のない遅刻、欠勤をなくすことを第一の目的としなければ、形だけいくら注意指導しても問題社員の勤怠を改善させることは難しいでしょう。単に「証拠作り」をしているに過ぎないことが透けて見えれば、労働審判や訴訟においても、懲戒処分や解雇の前提として行うべき注意指導をしたと評価してもらえない可能性が高くなります。
遅刻や無断欠勤が多い問題社員の態度が悪く、改善の意欲が見られないと、注意指導する側も匙を投げてしまい、辞めてもらうための証拠作りを注意指導の主な目的にしたくなるかもしれません。しかし、そのやり方ではかえって、辞めてもらうという目的を達成することを困難にしてしまいます。問題社員の遅刻や無断欠勤をなくすことができるよう誠心誠意注意指導することが、結果として、問題社員の正当な理由のない遅刻、欠勤をなくすことや、改善しない場合の退職につながるのです。大変かもしれませんが、頑張って下さい。
遅刻や無断欠勤の多い問題社員を注意指導するに当たっては、遅刻や欠勤の事実を確認するほか、遅刻や無断欠勤の理由等についても事情を聴取します。事情を聴取したら、説明内容に対応したフィードバックを行い、遅刻や無断欠勤をなくすことができるようベストを尽くして下さい。
事情聴取の内容は、報告書等の形で上司に報告し、記録に残しておいて下さい。報告書等の書面の形式では大げさだというのであれば、上司への電子メールでの報告でも構いません。会社経営者等、社内で報告する相手がいないような場合は、顧問弁護士にメールで報告するとよいでしょう。遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく、懲戒処分を念頭に置いているような場合は、聴取結果を事情聴取書にまとめた上で聴取内容を確認させ、署名押印させることもあります。
上司等への報告や事情聴取書は、5W1Hを意識して「事実」を記載したものを作成して下さい。何月何日の何時頃、どこで、誰が、誰に対して、何をしたのか(どのような言葉のやり取りがなされたのか)といった客観的な事実を記載する必要があります。必要に応じて、どのように話したのか、どうしてそのように話したのかといったものを付け加えてもいいかもしれません。「事実」を記載せずに、「遅刻が多い。」とか「反省の色が見られない。」といった評価的な表現や「次に遅刻したらいかなる処分を受けても異存ありません。」といった反省の気持ちを表明する発言の記録が中心となってしまったのでは、遅刻や無断欠勤の具体的事情が明らかにならず、証拠価値が低くなってしまうことがあります。
口頭でいくら注意指導しても遅刻や無断欠勤が改まらず、業務に支障を来しているような場合は、「注意書」「厳重注意書」等の書面に5W1Hを意識した具体的事実を記載した「書面」を交付して注意指導しましょう。具体的事実を記載した「注意書」「厳重注意書」等の書面で注意指導することにより、本人の改善をより強く促すとともに、注意指導したことの証拠を確保することができます。遅刻や無断欠勤を繰り返していて、普段は自分の非を認め謝罪の言葉を口にしていたような社員であっても、労働審判や団体交渉の席では、「遅刻や欠勤は会社に認めてもらっていましたし、上司から十分な注意指導を受けたこともありません。」などと言って、懲戒処分や解雇の無効を主張するのがむしろ通常です。
「注意書」「厳重注意書」といった書面を受け取ったことがないと言われないようにするため、受領書にサインを取った方がいいのかとか、書留郵便で郵送した方がいいのかといった質問を受けることがよくあります。確かに、万全を期すのであれば、そういった配慮が必要なこともあるでしょう。しかし、実際の事案では、「注意書」「厳重注意書」といった書面を交付したにもかかわらず、受け取っていないと言われることは、それほど多くはありません。「確かに厳重注意書を受け取りましたが、内容が事実とは異なります。」といった主張がなされることがほとんどです。したがって、ほとんどの事案では、押印済みの「注意書」「厳重注意書」といった書面の写しとPDFを取った上で、本人に「注意書」等を交付し、何月何日何時頃どこで誰が当該社員に注意書等を交付したのか、その際、どのような言葉のやり取りがなされたのかを記録し、上司や顧問弁護士にメールで報告しておけば十分です。極端な虚言癖のある社員等、特に必要性が高い場合についてのみ、「注意書」等を交付するとともにそのPDFをメール送信したり、書留郵便やレターパックで「注意書」等を郵送したりすれば足りると思います。
注意指導の際のやり取りを録音しておくことも考えられますが、録音されていることを意識すると、言いたいことを素直に言えなくなってしまう可能性があります。録音記録を労働審判等で証拠として使うためには、反訳(文字起こし)して文書化しなければならないため、録音記録の利用は手間がかかる面があることを意識する必要もあります。録音記録は、必要性をよく検討した上で、必要性が高いと判断された場合に利用すべきと考えます。
従来、ルーズな勤怠管理をしていた職場の場合、従来であれば容認されていた程度の遅刻や無断欠勤をした社員に対し注意指導しても、なかなか受け入れられず、上司が遅刻や無断欠勤を注意したところ、「パワハラだ。」などと言われることも珍しくありません。遅刻や無断欠勤をしないのは当然のことなのですが、ルーズな勤怠管理をしていた会社にも落ち度がありますので、直ちに懲戒処分等を行うことはお勧めできません。今後は遅刻や無断欠勤を許さない旨、明確に伝えた上で、粘り強く注意指導し、それでも改善しないときに懲戒処分等を行うことをお勧めします。
遅刻や無断欠勤が多い問題社員に対し電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが、電子メールでの注意指導は、必ず「口頭での注意指導とセット」で行って下さい。遅刻や無断欠勤が多い問題社員が、在職中であるにもかかわらず口頭での注意指導を拒絶し、電子メールでのみ注意指導等をするよう要求してくることがありますが、口頭での注意指導を怠ってはいけません。口頭でのコミュニケーションと比較して、電子メールでのコミュニケーションは、誤解が生じやすいものです。恋人や友達と喧嘩した際、電子メール、メッセンジャー、LINE等での話し合いでは埒があかなかったのに、実際に会ってしばらく話しているうちに仲直りしたという経験がある方も大勢いらっしゃるのではないかと思います。口頭での注意指導をせずに電子メールだけで注意指導した場合、注意指導の効果が上がらず、かえって「パワハラだ。」などと反発を受け、問題がこじれることはよくある話です。仮に、会って話すことができないような状況であっても、電子メールでの連絡で終わらせずに、せめて、電話で話すくらいの努力はするようにして下さい。テレビ電話機能を用いて、お互いの姿を表示しながら話し合うことができればより望ましいところです。
口頭で十分に注意指導せずに「書面」でのみ注意指導することもお勧めできません。社員の言い分を聴きながら口頭で教え諭して正しい方向に導いていく努力なしに、遅刻や無断欠勤の多い社員の態度を改めさせることは困難です。口頭での注意指導が不十分なまま、書面での注意指導や懲戒処分を行った場合、単に「証拠作り」をしているだけのように見えてしまうこともあります。
4 実態どおりの評価
勤務成績の評価は、遅刻や無断欠勤を正確に反映したものにして下さい。実態よりも高い評価をしているような会社は、勤務成績の評価の信頼性が低く、トラブルが拡大しやすい傾向にあります。
勤務成績の評価を実態に合わせて下げて昇給を停止したり、賞与を他の社員よりも大幅に低額にしたり、懲戒処分を行ったりして紛争になった場合、どうして勤務成績の評価を下げたのか、懲戒処分を行わなければならないのかを説明できるようにしておく必要があります。従来は実態よりも高い評価がなされ、昇給幅も賞与額も他の社員とあまり変わらなかった社員に関し、繰り返される遅刻や無断欠勤に堪忍袋の緒が切れて勤務成績の評価を実態に合わせて大幅に下げたような場合は、評価を大幅に下げた合理的理由を説明する難易度が高くなります。その結果、評価を実態に合わせて大幅に下げたことがハラスメントと受け取られて紛争となったり、配置転換・降格、懲戒処分、解雇等が無効と判断されたりするリスクが高くなります。
実態よりも高い評価をした方が部下に好かれやすく、問題を先送りにできることもあり、管理職の中には、下手に厳しい評価をして部下に不満を持たれては損だ、実態よりも高い評価をしてあげる上司が良い上司だ、などと勘違いしている者も少なからず存在します。言ってみれば、会社の利益や公正な評価よりも、自分の利益を優先させているわけです。部下の良いところも悪いところもありのままによく見てあげて適正に評価することの重要性を社内で共有しておくべきでしょう。
5 配置転換・降格
遅刻や無断欠勤があったのでは支障が大きな業務に従事している場合は、人事権を行使して、担当業務を変更することを検討する必要があるかもしれません。
管理職が遅刻や無断欠勤が多く、部下やプロジェクトの管理に支障を来すなど、管理職としての適格性を欠くような場合は、「人事権」を行使して、管理職から外す等の対応をするとよいでしょう。就業規則には「懲戒処分」としての降格処分が規定されていることが多いですが、多くの事案において会社にとって最も重要なのは「適材適所」の実現であって、当該管理職の処罰ではありません。懲戒処分の形式を選択する必要性が高い例外的な場合を除き、「懲戒処分」としての降格処分をするのではなく、「人事権」を行使して管理職から外す等の対応をすることをお勧めします。
6 懲戒処分
「厳重注意書」等の書面で注意指導しても遅刻や無断欠勤が改まらず、業務に支障が生じている場合は、懲戒処分を検討せざるを得ません。遅刻や無断欠勤が多い社員の対応としては、まずは、譴責、減給といった軽い懲戒処分を行い、それでも改善しない場合に出勤停止等のより重い処分をしていくことになります。
民間企業の社員と国家公務員との性質の違いは意識する必要があるものの、懲戒処分の種類を決定するに当たっては、人事院事務総長発「懲戒処分の指針について」が参考になります。同指針は、遅刻や欠勤に関する標準的な懲戒処分として以下のように規定しています。
(1) 欠勤
ア 正当な理由なく10日以内の間勤務を欠いた職員は、減給又は戒告とする。
イ 正当な理由なく11日以上20日以内の間勤務を欠いた職員は、停職又は減給とする。
ウ 正当な理由なく21日以上の間勤務を欠いた職員は、免職又は停職とする。
(2) 遅刻・早退
勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた職員は、戒告とする。
有効に懲戒処分を行う前提として、懲戒の種類と事由を就業規則に明記し、周知(社員が見ようと思えば見られる状態にしておくこと。)させておいて下さい。就業規則が周知されていないと、業務に重大な支障が生じていても懲戒処分を有効に行うことはできません。中小企業では、懲戒事由に該当するかとか、懲戒権濫用に当たらないかといった問題以前の話として、就業規則が周知されていないというだけの理由で懲戒処分が無効と判断されることも珍しくありません。
「懲戒処分なんてしたら、職場の雰囲気が悪くなる。」などと言って、懲戒処分を行わずにいきなり辞めてもらおうとする会社経営者は珍しくありません。しかし、懲戒処分歴のない社員を、遅刻や無断欠勤を理由として有効に解雇することは、遅刻や無断欠勤の程度がよほど甚だしい場合でない限り困難です。遅刻や無断欠勤が多い社員が退職勧奨に応じて退職届を提出してくれれば、懲戒処分を行っていなくても目的は達成できるかもしれませんが、懲戒処分を行っておらず、解雇しても無効と判断されるリスクが高い事案において、社員から「退職勧奨には応じられません。」と回答されてしまったら打つ手はなく、それこそ職場の雰囲気が悪くなってしまいます。解決金を支払って辞めてもらおうにも、社員は解雇されても無効であることが分かっていて怖くないわけですから、解決金の相場は高くなることでしょう。勢い、強引な退職勧奨を行って、不法行為が成立するようなことにもなりかねません。他方、解雇が有効となる可能性がそれなりに高い場合であれば、社員の側としても無理に争って解雇が有効と判断されては困りますから、ほどほどの金額の解決金で合意退職に応じることが合理的な選択となります。したがって、退職勧奨で辞めてもらう場合であっても、懲戒処分を繰り返し行ったにもかかわらず遅刻や無断欠勤が改まらなかったのでやむなく退職勧奨をして辞めてもらったという流れになるよう準備していく必要があります(懲戒処分の結果、遅刻や無断欠勤が改善された場合は、当面は勤務を継続させて様子を見ることになります。)。職場の雰囲気が悪くなることを恐れて、懲戒処分をせずにいきなり辞めてもらおうとすることは、遅刻や無断欠勤の程度が甚だしいなどの理由から解雇が有効となる見込みが高い場合や、本人も退職する意思を表明していて条件交渉が残されているだけの場合を除き、適切ではないと考えます。
7 退職勧奨
懲戒処分を繰り返しても遅刻や無断欠勤が改まらない社員については、退職勧奨を行って辞めてもらうことを検討すべきでしょう。
退職に当たり一定額の金銭の支払等を要求された場合は、それが過度の要求でないのであれば、折り合いをつけるよう交渉するのが原則です。双方折り合いがついた場合は、退職合意書を交わすなどして権利義務関係を明確にし、退職してもらいましょう。折り合いがつかない場合は、懲戒処分を行うのか、解雇するのかなどについて、検討していくことになります。
8 普通解雇・懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分
懲戒処分を繰り返しても遅刻や無断欠勤が改まらず、退職勧奨にも応じない場合は、普通解雇・懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分を検討せざるを得ません。
懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の懲戒処分を行う場合には、懲戒の種類と事由が記載された就業規則が周知されていることが前提として必要です。就業規則が周知されていないと「門前払い」となり、懲戒解雇等の懲戒処分を有効に行うことはできません。就業規則が周知されておらず懲戒解雇等の懲戒処分ができない場合は、普通解雇で対処することになります。諭旨退職処分をした場合は、退職願が提出されていたとしても、合意退職扱いとはされず、懲戒処分としての諭旨退職処分の有効性が問題となることにも注意して下さい。
普通解雇や懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)等の退職の効果を伴う処分を行う場合は、職場から排除しなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく、業務に重大な支障が生じていることを証拠により立証できるようにしておく必要があります。立証に必要な客観的証拠がそろっているのか、十分に検討してから普通解雇や懲戒解雇等に踏み切って下さい。
私が顧問先企業等に解雇等を指導する場合、1か月以上欠勤が続いてから普通解雇(たいていは予告解雇)に踏み切るのが通常です。遅刻や無断欠勤の多い問題社員に関しては、懲戒解雇、即時解雇にこだわる必要性のある事案はほとんど存在しません。普通解雇(たいていは予告解雇)で、遅刻や無断欠勤の多い問題社員との間の労働契約関係の解消という目的を達成することができます。特に、遅刻や欠勤があればその時間分の賃金が支払われない欠勤控除のある会社においては、社会保険料の負担はあるにせよ、急いで解雇に踏み切る必要性は高くありません。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎