問題社員17 退職届を提出したのに、後になってから退職の撤回を求めてくる。

 退職届の提出は、通常は合意退職の申し出と評価することができます。
 合意退職は退職の申込みに対する承諾がなされて初めて成立しますから、合意退職の申し出をした社員は、社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が承諾の意思表示をするまでは、信義則に反するような特段の事情がない限り、退職を撤回することができることになります。
 したがって、退職を早期に確定したい場合は、退職を承諾する旨の意思表示を早期に行う必要があります。
 退職を認める旨の決済が内部的になされただけでは足りません。

 退職届を提出した社員から、心裡留保(民法93条)、錯誤(民法95条)、強迫(民法96条)等が主張されることもありますが、なかなか認められません。
 退職するつもりはないのに、反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は、心裡留保(民法93条ただし書き)により、退職は無効となります。
 錯誤、強迫が認められやすい典型的事例は、「このままだと懲戒解雇は避けられず、懲戒解雇だと退職金は出ない。ただ、退職届を提出するのであれば、温情で受理し、退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ、実際には懲戒解雇できるような事案ではなかったことが後から判明したようなケースです。
 懲戒事由の存在が明白ではない場合は、懲戒解雇の威嚇の下、自主退職に追い込んだと評価されないようにしなければなりません。
 退職勧奨を行うにあたっては、「解雇」という言葉は使わないことをお勧めします。

 退職自体は有効であっても、退職勧奨のやり方次第では、慰謝料の支払を命じられることがあります。
 退職勧奨のやり取りは、無断録音されていることが多く、録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は、証拠として認められてしまいます。
 退職勧奨を行う場合は、無断録音されていても不都合がないよう気をつけて下さい。

 退職届等の客観的証拠がないと、口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず、在職中であるとか、解雇されたとか認定されることがあります。
 退職の申出があった場合は漫然と放置せず、速やかに退職届を提出させて証拠を残しておくようにして下さい。
 印鑑を持ち合わせていない場合は、差し当たり、署名があれば十分です。
 後から印鑑を持参させて、面前で押印させるようにして下さい。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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