問題社員16 退職届提出と同時に年休取得を申請し、引継ぎをしない。

 労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、適法な時季変更権の行使がない限り、年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅することになります。
 年休取得に使用者の承認は不要です。

 使用者が、社員の年休取得を拒むことができるというためには、時季変更権(労基法39条5項)を行使できる場面でなければなりませんが、時季変更権の行使は、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」(労基法39条5項)とするものに過ぎず、年休を取得する権利自体を奪うことはできません。
 退職後に年休を与えることはできないため、退職までの全労働日の年休取得を申請された場合、使用者は時季変更権の行使ができず、退職日までの年休取得を拒絶することはできません。
 昭和49年1月11日基収5554号も、「年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えないものと解する。」としています。

 引継ぎをしてもらわなければ業務に支障が生じることもあるかもしれませんが、法的にはやむを得ません。
 退職する社員とよく話し合って、年休買い上げの合意をするか、退職日を先に延ばす合意をするなどして、引継ぎをするよう説得するほかありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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