問題社員10 仕事の能力が低い。
1 募集採用活動の重要性
仕事の能力が低い社員を減らす一番の方法は、採用活動を慎重に行い、応募者の適性・能力等を十分に審査して基準を満たした者のみを採用することです。採用活動の段階で手抜きをして、十分な審査をせずに採用していったのでは、教育制度がよほど整備されているような会社でない限り、仕事の能力が低い社員を減らすことはできないでしょう。
2 採用後の対応
注意指導、教育して必要な能力を身につけさせたり、異なる部署への配転をするなどして能力を発揮できるよう最大限努力して下さい。
ただし、特定の能力があることを前提として高給で採用された社員、地位を特定して高給で採用された社員に契約で想定されている能力がないことが判明した場合は、教育や配転ではなく、直ちに退職勧奨や普通解雇を検討するのが原則となります。
3 退職勧奨
能力不足の程度が甚だしく、十分に注意指導、教育しても改善の見込みが低い場合には、会社を辞めてもらうほかありませんので、退職勧奨や普通解雇を検討することになります。解雇が有効となる見込みが高い程度に能力不足の程度が著しい事案では、解雇するまでもなく、合意退職が成立することも珍しくありません。
他方、能力不足の程度がそれほどでもなく解雇が有効とはなりそうもない事案、誠実に勤務する意欲が低かったり能力が低い等の理由から転職が容易ではない社員の事案、本人の実力に見合わない適正水準を超えた金額の賃金が支給されていて転職すればほぼ間違いなく当該社員の収入が減ることが予想される事案等で退職届を提出させるのは、比較的難易度が高くなります。
4 解雇
能力不足の程度が甚だしく改善の見込みが低い場合には、退職勧奨と平行して普通解雇を検討することになります。普通解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては、
① 就業規則の普通解雇事由に該当するか
② 解雇権濫用(労契法16条)に当たらないか
③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
④ 解雇が制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
普通解雇が有効となるためには、単に就業規則の普通解雇事由に該当するだけでなく、②客観的に合理的な理由が必要であり、社会通念上相当なものである必要もあります。
解雇に客観的に合理的な理由がない場合は、②解雇権を濫用したものとして無効となってしまいますし、そもそも①普通解雇事由に該当しない可能性もあります。解雇に客観的に合理的な理由があるというためには、労働契約を終了させなければならないほど能力不足の程度が甚だしく、業務の遂行に重大な支障が生じていることが必要です。
解雇が社会通念上相当であるというためには、労働者の情状(反省の態度、過去の勤務態度・処分歴、年齢・家族構成等)、他の労働者の処分との均衡、使用者側の対応・落ち度等に照らして、解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
能力不足を理由とした解雇が認められるかどうかは、基本的には労働契約で求められている能力が欠如しているかどうかによります。単に思ったほど能力がなく、見込み違いであったというだけでは、解雇は認められません。
長期雇用を予定した新卒採用者については、社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているのですから、能力不足を理由とした解雇は、例外的な場合でない限り認められません。一般的には、勤続年数が長い社員、賃金が低い社員は、能力不足を理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は、一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
特定の能力を有することが労働契約の条件とされて高給で採用された社員、地位を特定して高給で採用された社員に労働契約で予定された能力がなかった場合には、解雇が認められやすい傾向にあります。ただし、解雇が比較的緩やかに認められる前提として、当該契約で求められている能力の内容、地位を特定して採用された事実を主張立証する必要がありますので、労働契約書等の書面に明示しておくべきです。労働契約書等に明示されていないと、当該契約で求められている能力の内容、地位を特定して採用された事実の主張立証が困難となることがあります。
能力不足を理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには、能力不足を示す「具体的事実」を立証できるようにしておく必要があります。抽象的に「能力不足」と言ってみても、あまり意味はありません。何月何日に能力不足を示すどのような具体的事実があったのか、記録に残しておく必要があります。「彼(女)の能力が低いことは、周りの社員も、取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。会社関係者の陳述書や法廷での証言は、証拠価値があまり高くないため、紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと、解雇の有効性を基礎付ける事実を主張立証するのには困難を伴うことが多いというのが実情です。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎