問題社員1 協調性がない。
目次
1 「協調性がない」の内容・程度は多種多様
「協調性がない」問題社員の相談を受けてみると、その内容・程度は多種多様であることに驚かされます。まずは、どのようなものが「協調性がない」といわれているのかについて、全体像を把握することから始めましょう。「協調性がない」といわれる事案には、例えば、以下のようなものがあります。
① 協調性が足りず、周囲と無用の軋轢が生じているが、問題の程度は軽微な問題社員
② 周りの社員と協調して仕事をすることがあまりにも下手で、迷惑をかけてばかりいることは事実だが、本人には全く悪気はない「能力不足」の問題社員
③ 協調性がない言動を何度注意指導しても全く反省せず、自分勝手な反論ばかりして、問題社員本人の担当職務のみならず周囲の職務遂行にも支障を生じさせたり、職場の雰囲気を悪化させる「確信犯」的な問題社員
④ 能力不足と確信犯的なパーソナリティを併せ持つ「ハイブリッド型」の協調性がない問題社員
⑤ 協調性がないというにとどまらず、業務命令違反や不正行為などまで行うに至っている問題社員
2 「協調性がない」問題社員の基本的対応
「① 協調性が足りず、周囲と無用の軋轢が生じているが、問題の程度は軽微な問題社員」は、教育指導により一定の協調性を身につけさせるのが基本的対応です。厳重注意や懲戒処分をせざるを得ないこともありますが、厳重注意や懲戒処分を行うことによりある程度の改善効果を期待することができます。
「② 周りの社員と協調して仕事をすることがあまりにも下手で、迷惑をかけてばかりいることは事実だが、本人には全く悪気はない「能力不足」の問題社員」は、教育指導を行なって、周りと強調して仕事をする能力の向上を図ることが最初に取るべき対応ですが、周りの社員と協調して仕事をすることの適性のなさの程度によっては、教育指導では対応しきれないことがあります。適性のある職務に配置する現実的可能性があるのであれば配置転換で対応できるのかもしれませんが、適性のある職務が社内に見当たらないことも多く、教育指導しているうちに本人の気持ちが切れて自主退職してしまうことも珍しくありません。上司や周囲の負担があまりにも重い場合は、退職条件を交渉して辞めてもらったり、試用期間中であれば本採用を拒否するなどの対応をすることもあります。
「③ 協調性がない言動を何度注意指導しても全く反省せず、自分勝手な反論ばかりして、問題社員本人の担当職務のみならず周囲の職務遂行にも支障を生じさせたり、職場の雰囲気を悪化させる『確信犯』的な問題社員」についても教育指導を行いますが、それだけでは足りません。自分が正しいと思っている「確信犯」的な問題社員は、自分が言動を改める必要はなく、むしろ会社こそ対応を改めるべきだと考えていることが多いため、教育指導だけでは効果をあげにくい客観的状況にあるからです。協調性がない言動が改善するまで、教育指導と並行して、厳重注意、懲戒処分を粘り強く行うのが基本的対応です。もっとも、自分が言動を改める必要はなく、むしろ会社こそ対応を改めるべきだと考えている「確信犯」的な問題社員なだけに、自分の受けている厳重注意や懲戒処分に最後まで納得することができずに協調性のない言動を繰り返すことも珍しくありません。教育指導するのと並行して、厳重注意、懲戒処分を粘り強く行っていると、自主退職することもありますが、上司の負担が重く、職場に与える悪影響が大きいような場合は、退職条件を交渉して退職してもらったり、解雇に踏み切ることもあります。
「④ 能力不足と確信犯的なパーソナリティを併せ持つ「ハイブリッド型」の協調性がない問題社員」は、②③についての対応を臨機応変に組み合わせて行います。
「⑤ 協調性がないというにとどまらず、業務命令違反や不正行為などまで行うに至っている問題社員」については、業務命令違反等のより明白に問題の大きな言動を問題の中心と捉えて対応するのが通常です。
④は②と③のハイブリッドであり、⑤は業務命令違反や不正行為などが対応の中心になりますので、以下では①②③の対応について項目を分けて解説していきます。
3 「協調性がない」程度が軽微な問題社員
「① 協調性が足りず、周囲と無用の軋轢が生じているが、問題の程度は軽微な問題社員」は、教育指導により一定の協調性を身につけさせるのが基本的対応です。協調性が足りず、周囲と無用の軋轢が生じている以上、改善が必要なのは明らかですが、直ちに協調性のなさが改善する見込みが低いといえるような客観的状況にはありません。単に意識が低いため協調性がない言動をしていたというに過ぎないこともあれば、上司や先輩の指示内容が不明確で説明が不足しているために会社側の意図が伝わっておらず協調しようがないことが原因のこともありますので、何が原因かを検討し、問題の解消に努めていきましょう。
「協調性がない」原因を検討する上で有効なのが、「協調性がない」問題社員が、いつ、どこで、何をしたことを「協調性がない」と評価しているのか、「具体的な言動」を書き出し、具体的にどのように行動して欲しいのかを検討することです。「協調性がない」は、「評価」であって、客観的な「事実」ではなく、評価を裏付ける事実の検証なしには「協調性がない」という評価の妥当性を判断することはできません。しかし、会社経営者が役員や人事労務担当者と問題社員の具体的な言動を離れて議論しているうちに、あの社員は「協調性がない」ということで関係者の評価が一致し、あたかも客観的な事実が明らかになったかのように集団で思いこんでしまうことになりがちです。「協調性がない」問題社員が、いつ、どこで、何をしたことを「協調性がない」と評価しているのかをしっかり議論することで、当該事実の有無、「協調性がない」という評価の妥当性を客観的に検証することができるようになります。社内の議論だけではどうしてもバイアスがかかりやすくなりますので、バイアスを持たずに判断する必要性が高い事案については、弁護士のカウンセリングを受けながら、「協調性がない」と評価すべき言動があるかを検討することをお勧めします。
「協調性がない」問題社員を教育指導するにあたっては、上で検討した「協調性がない」と評価することができる具体的事実を明確に説明することが重要です。具体的事実を説明するというのは、いつ、どこで、何をしたことを「協調性がない」と評価したのかを伝えるということです。いつ、どこで、何をしたことを「協調性がない」と評価したのかを伝えることができれば、評価の前提となる事実があったのかなかったのかや、評価の妥当性についても具体的に議論することができるようになります。その結果、問題の所在を正確に把握しやすくなりますし、具体的にどうすればいいのか、改善点に関するアドバイスを具体的に伝えられるようになります。具体的な言動を離れて「協調性がない」ことを改善させようとすると、アドバイスも抽象的で何をして欲しいのか不明確なものとなりやすく、教育指導の効果も低くなります。教育指導の効果を上げるためには、いつ、どこで、何をしたことを理由として「協調性がない」と評価したのか、具体的に何をすればいいのかについて、具体的に説明できるようにしておく必要があります。
「協調性がない」問題社員と教育指導する人物が同じ又は近接した場所で働いている場合は、会議室などに呼んで面談で教育指導するのが原則です。面談で教育指導することにより、お互いに伝わる情報の種類・量が多くなり、コミュニケーションを取りやすくなります。離れた場所にいるため実際に会って話すことが難しい場合は、 Teams・Zoomなどのオンライン面談がお勧めです。オンライン面談に不慣れな人物だと実際に会ったときのようにはいかないかもしれませんが、オンライン面談に熟練した人物であれば、実際に会って話した場合と遜色のない教育指導効果を期待することができます。オンライン面談も難しい場合は、電話などで話して教育指導してください。電子メールなどの文字情報は、単独では教育指導の効果が低いので、面談での教育指導などを併用するようにしてください。
「協調性がない」程度が軽微な問題社員の言動であっても、実際の言動によっては、口頭の教育指導だけでは足りないこともあります。問題の程度に応じて、厳重注意書を交付したり、懲戒処分を行うなどの対応をしましょう。懲戒処分を行なったことがないなどの理由から、懲戒処分等を行うことに不安がある場合は、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。懲戒処分等を行うまでの段取りの決定や懲戒処分通知書等の作成などについて会社経営者をサポートします。
4 「能力不足」のため協調できない問題社員
「② 周りの社員と協調して仕事をすることがあまりにも下手で、迷惑をかけてばかりいることは事実だが、本人には全く悪気はない『能力不足』の問題社員」は、能力不足が原因で周りの社員と協調して仕事をすることができないわけですから、教育指導を行なって、周りと強調して仕事をする能力の向上を図ることが最初に取るべき対応です。周りの社員と協調して仕事をすることの適性がそれなりにあるにもかかわらず、単なる経験不足などのために協調性がない言動を取ってしまっているような場合は、適切に教育指導することにより、周りの社員と協調して仕事をすることができるようになっていきます。周りの社員と協調して仕事をする適性が低い場合であっても、ある程度の低さまでであれば、適切に教育指導することにより、少しずつ協調性のない言動が改善していき、長期的には協調性のなさの程度が問題のないレベルにまで到達することもあります。
他方で、周りの社員と協調して仕事をすることの適性があまりにも低い場合は、教育指導による能力向上を期待することができません。適性が極端に低い職務に従事させられることは、努力しても報われないことなどから、働く側にとってもストレスが大きく、将来のキャリア形成にもプラスになりませんので、別の職務に従事させるべき客観的状況にあるといえます。日本企業の正社員の多くは、職務を限定せずに採用されたメンバーシップ型社員のため、現在担当している職務の適性が低くて改善の見込みがない場合は、原則として他の職務に配置転換するなどして対応すべきことになります。直ちに退職勧奨や解雇を検討するのが客観的にも適切といえるのは、周りの社員と協調して仕事をする適性があまりにも低いため、配置転換の現実的可能性がある職務の中に、労働契約で予定された水準の労務を提供することができる見込みがある職務が存在しないような場合に限られます。
配置転換の現実的可能性のある職務の中に、周りの社員と協調して仕事をする必要性が低い職務が存在するのであれば、当該職務に配置転換すれば足りるのかもしれませんが、周りの社員と協調して仕事をする必要性が低い職務が見当たらないことは珍しくありません。その結果、周りの社員と協調して仕事をする必要性がそれなりにあるため、「能力不足」の問題社員が従事すればそれなりに困難を伴うことが予想されるものの、そのことに伴う実害ができるだけ少ない職務に配置転換して従事させることになりがちです。周りの社員と協調して仕事をすることの適性があまりにも低い社員を周りの社員と協調して仕事をする必要性がそれなりにある職務に従事させようとするわけですから、そのことに伴う実害ができるだけ少ない職務を選んだつもりであっても、配置転換先が受け入れに難色を示すことが多くなりがちです。配置転換を受け入れてもらうに当たっては、能力不足の部下であっても教育指導する能力と意欲が高い上司のいる部署に配置したり、周りの社員に一定の負担を覚悟してもらうための説明を行うとともに、負担の程度に応じた評価と賃金の支払を行ったりするなどの工夫が必要となります。また、周りの社員と協調して仕事をすることの適性があまりにも低い社員が、周りの社員と協調して仕事をする必要性がそれなりにある職務に従事することは、「能力不足」の問題社員にとっても、決して幸せなことではありません。会社側が受け入れ態勢を整えてできる限りの教育指導を行なったとしても、「能力不足」の問題社員の根気が続かず、仕事で成果を上げる前に自主退職してしまうことも珍しくありません。このため、会社や周りの社員、「能力不足」の問題社員の負担があまりにも重くなることが予想される場合は、直ちに解雇するのは躊躇するような客観的状況にある場合であっても、退職条件を交渉して辞めてもらうことがあります。特に、試用期間中の新入社員であれば、本採用拒否を検討するとともに、退職条件を交渉して合意退職を目指すのが適切な場合が多いといえるでしょう。
5 「確信犯」的な協調性がない問題社員
「③ 協調性がない言動を何度注意指導しても全く反省せず、自分勝手な反論ばかりして、問題社員本人の担当職務のみならず周囲の職務遂行にも支障を生じさせたり、職場の雰囲気を悪化させる『確信犯』的な問題社員」は「問題社員」の典型であり、私が受ける「協調性がない問題社員」の相談の中でも、特に数が多い類型です。問題社員セミナーで事前質問、当日質問を受け付けると、必ずといっていいほど「確信犯」的な協調性がない問題社員の対応についての質問を受けます。「確信犯」的な協調性がない問題社員の対応方法を学び実践することは、様々なタイプの問題社員に対応することができるようになるための基本といえるものですので、まずは「確信犯」的な協調性がない問題社員をケーススタディとして、「問題社員」対応の基礎を学び実践して、問題社員対応スキルを身につけていきましょう。
「確信犯」的な協調性がない問題社員であることが疑われる場合であっても、まずは教育指導を行うことにより改善を促すことから始めます。なぜなら、「確信犯」的な協調性がない問題社員であるかどうかは、実際に教育指導を行い、問題社員の反応を見てからでないと、精度の高い判断をすることができないからです。自分は直感が優れていて、確認するまでもなく正しい結論を導くことができると考えている会社経営者もいらっしゃるとは思いますが、会社経営者の直感的判断だけの場合と、算数の「検算」と同じように、本当に直感どおりなのかを確認してから最終判断をした場合とでは、確認(「検算」)をしてから最終判断をした場合の方が、精度の高い判断となるのが通常です。よほど特別な事情があるのでない限り、まずは教育指導を行うことにより改善を促すことから始めるようにしてください。
協調性がない問題社員の反応などから、「確信犯」的な協調性がない問題社員であることが判明した場合は、周りと協調して仕事をする能力を向上させるための教育指導だけでは足りません。自分が正しいと思っている「確信犯」的な問題社員は、自分が言動を改める必要はなく、むしろ会社こそ対応を改めるべきだと考えていることが多いため、教育指導だけでは効果をあげにくい客観的状況にあるからです。協調性がない言動が改善するまで、教育指導と並行して、厳重注意、懲戒処分を粘り強く行うのが基本的対応です。
注意指導は、「確信犯」的に協調性のない問題社員の「具体的言動」について、行なってください。「何月何日の何時頃、どこで、何をしたことが問題なのか」を具体的に伝える必要があります。問題となる具体的言動を伝えずに、「協調性が足りないので改善してください。」とだけ伝えたのでは、何を改めればいいのか分からず、教育効果がほとんどなくなってしまいますし、問題社員の立場からすれば、「言いがかりをつけられた。」「自分は嫌われているようだ。」などと受け止めるのが通常です。会社経営者としては、「何が問題なのかを含め、自分の頭で考えてほしい。」ということなのだと思いますが、このような曖昧な教育方法が成果を上げる場面は極めて限定的です。注意指導する人物を深く信頼していて、抽象的思考力が高く、向上心もあるエース級社員でもない限り、教育効果が低い注意指導方法と言わざるを得ません。協調性のない問題社員として私が相談を受けるような社員の場合は、全くと言っていいほど教育効果がありません。
注意指導は、「具体的に何をすれば良かったのか」を伝えられるようにしてください。確かに、注意指導の対象となる言動の場合は「何月何日の何時頃、どこで、何をしたことが問題なのか」を具体的に伝える必要があったのとは異なり、「具体的に何をすれば良かったのか」については、一般論としては、問題社員本人に考えさせることもありますが、「確信犯」的な協調性がない問題社員の場合は、問題社員本人に考えさせても自分で答えを見つけようとせず、いつまで経っても協調性のなさが改善しないのが通常だからです。「コーチング」を過度に重視するあまり、「具体的に何をすれば良かったのか」を伝えられておらず、「確信犯」的な協調性のなさがいつまで経っても改善しない行き詰まった状況はよく見られる現象です。加えて、「具体的に何をすれば良かったのか」を伝えられるかどうかを確認することは、会社経営者が、自分が問題視している言動が、客観的に問題のあるものなのかどうかを確かめることができるという効果もあります。会社経営者が「具体的に何をすれば良かったのか」を伝えられないような言動は、注意指導の対象となるような問題のある言動とはいえません。
口頭での注意指導を繰り返しても協調性のなさが改善しない場合は、厳重注意書等の書面を交付して注意指導するか、譴責処分等の懲戒処分を行なってください。従来と大きく異ならない程度の協調性のない問題行動が繰り返されたに過ぎないのであれば、まずは厳重注意書を交付することから始めることが多いと思います。他方、問題の程度が大きい場合は、直ちに譴責処分等の懲戒処分を行うこともあります。
「日本では解雇が難しいらしい。」という情報が広まっているせいか、近年では、問題のある社員であっても、直ちに解雇しようとする会社経営者は減ってきており、退職勧奨により合意退職を目指す会社経営者が増えているようですが、「口頭での注意指導を繰り返しても協調性のなさが改善しない」という程度であれば、直ちに退職勧奨を行うのは、やや気が早いように思います。もちろん、協調性のない問題社員が退職に同意すれば早期に問題は解決します。退職勧奨をしたに過ぎないのであれば、退職を断られたらその時点で別の対応を検討すればいいという発想もあり得るとは思います。従来の延長線上にないくらい協調性のなさが酷い言動があったため、有効に解雇を行うことができるかもしれない状況になったような場合であれば、退職勧奨を行うことはむしろ適切な対応といえます。
しかし、退職勧奨をして断られた場合に生じる問題は無視できないほど大きなものです。退職勧奨を断られて辞めてもらえなかった場合、その後の対応の難易度は高くなります。問題社員にしてみれば、会社を辞めるよう言われたわけですから、会社に対する信頼感や安心感はなくなってしまいます。強い不信感を持たれてしまうのが通常です。以後(も)、熱心に仕事をしてもらうことは期待できません。仕事の手を抜いたり、不正行為をしたりされるリスクも高まります。会社経営者がすること全てが「嫌がらせ」のように見えてきますので、会社経営者の悪気のない言動にも不快感を感じて、ハラスメントをされたなどと言われやすくなります。退職勧奨を行うことには、このようなリスクがありますので、退職を断られたらその時点で別の対応を検討すればいいと簡単に考えるわけにはいきません。厳重注意書を交付したことも、懲戒処分をしたことも1度もないにもかかわらず、直ちに退職勧奨を行うのが妥当なのは、協調性のない問題社員も条件次第では退職に応じるかのような発言をしていて合意退職が成立する可能性がそれなりにある場合、従来の延長線上にないくらい協調性のなさが酷い言動があり有効に解雇することができる可能性がそれなりにある場合、弁護士と相談しながら正攻法の労務管理を行うことができる人材が会社経営者を含め1人も存在しないなどの理由から正攻法の対応が事実上不可能な場合などに限られます。
厳重注意書や懲戒処分通知書には、協調性のない問題社員が、何月何日の何時頃、どこで、何をしたことが問題なのか、問題のある言動を具体的に記載します。協調性がないとか、就業規則のどの条文に該当するといった「評価」は、具体的事実を記載した上で、当該具体的事実について行うべきものです。問題のある言動を具体的に記載することにより、問題の対象が明確になりますので、教育効果が高くなりますし、厳重注意や懲戒処分が正当なものであることを説明しやすくなります。客観的に見て教育効果が高く、客観的に正当なものであることが分かる具体的事実が記載されている厳重注意や懲戒処分を受けているにもかかわらず、当該問題社員が協調性のない問題行動を繰り返した場合は、問題行動の悪質性が強くなりますので、その後の人事評価、懲戒処分、退職勧奨、解雇等の正当性を説明しやすくなります。
懲戒処分を行う場合は、問題のある言動が就業規則何条何項何号の懲戒事由に該当するのか、懲戒処分の種類・程度はどのようなものか、当該懲戒処分の種類・程度を選択した理由、始末書提出の要否・提出期限等を記載します。問題のある言動がどの懲戒事由に該当するかについては、通常の日本語の読み方を基準として判断すれば正解を導くことができますが、懲戒処分を行なった経験が多くない会社経営者の場合は判断に迷うことが多いようですので、弁護士との打合せの中で懲戒事由の適用条文を決定するのが現実的対応かもしれません。
懲戒処分の種類・程度の選択には、実質的判断が必要です。企業秩序を回復することができるような種類・程度の懲戒処分を選択したいのはもちろんですが、重過ぎる懲戒処分を選択すると、懲戒処分に客観的に合理的な理由がないなどとして、懲戒処分は無効となってしまいます。同じ事案の懲戒処分でも、地裁、高裁、最高裁の裁判官で懲戒処分の有効性判断が異なることもあるなど、懲戒処分の種類・程度に関し踏み込んだ選択をすると、予測可能性が低くなってしまいます。踏み込んだ判断は、それなりのリスクを覚悟しなければならないとなると、どうしても無難で軽めの懲戒処分を行うことになりがちです。それはそれで合理的な対応なのですが、過度に軽い処分となることもまた、できるだけ避けたいところです。企業秩序を回復するためには、リスクを管理しながらも、適切な懲戒処分の種類・程度を選択していかなければなりません。可能であれば、問題社員対応を中心業務としている弁護士に相談してリスクを管理しながら、ある程度踏み込んだ判断をするようにしたいところです。
懲戒処分を有効に行うためには、そのほか、懲戒処分の種類・懲戒事由を記載した就業規則を周知させているか、二重処分となっていないか、社会通念上相当といえるかなど、様々な事情を考慮して対応する必要があります。
協調性のない問題社員も条件次第では退職に応じるかのような発言をしている場合、懲戒処分を繰り返しても協調性のなさが改善しないとか、従来の延長線上にないくらい協調性のなさが酷い言動があるため有効に解雇することができる可能性がそれなりにある場合、弁護士と相談しながら正攻法の労務管理を行うことができる人材が会社経営者を含め1人も存在しないなどの理由から正攻法の対応が事実上不可能な場合などは、協調性のない問題社員に対し、退職勧奨を行います。まず理解しなければならないのが、退職勧奨は「合意退職」を目指すものだということです。「合意退職」ですから、「問題社員の同意」を得た上での退職となります。退職勧奨を行なっているはずが、「合意退職」と「解雇」を混同し、問題社員側から「解雇」の話に誘導されて、いつの間にか、「解雇」したことにされてしまうことがあります。しかし、「解雇」は、退職について労働者の同意が「ない」場合に、雇い主が「一方的に」労働契約を終了させる意思表示です。退職勧奨で目指している、労働者の同意がある「合意退職」とは全く性質が異なります。準備不足の「解雇」であれば、解雇無効を主張して多額の解決金を取得しやすいせいか、問題社員は、「合意退職」の提案を「解雇」と話をすり替える傾向にあります。このため、退職勧奨で目指している「合意退職」が、「解雇」とは全く性質の違うものだというのを理解することが、基本的でありながら最も重要な知識といえます。
退職勧奨を行うに当たっては、主に次の2点を事前に検討し、面談を実施して協調性のない問題社員に説明します。
① 会社を辞めなければならない理由
② 退職条件
①会社を辞めなければならない理由の説明は軽視されがちですが、極めて重要な項目です。なぜなら、当該問題社員が①会社を辞めなければならない理由が存在しないのであれば、会社が行う退職勧奨には正当性がないことになってしまうからです。正当性がない退職勧奨では、問題社員に合意退職に応じてもらいにくくなりますし、問題社員が退職には応じる意向を示したとしても、②退職条件は会社にとって不利な方向のものとなるのは避けられません。退職に当たって支払わなければならない解決金の額も高くなります。①会社を辞めなければならない理由を説明することは、問題社員を刺激するため、かえって問題がこじれるなどといった考えを聴くこともありますが、①会社を辞めなければならない理由が正当なものなのであれば、それを説明したことで問題がこじれることはほとんどありません。むしろ、辞めなければならない理由を説明せずに退職を求めることは、十分な根回しができているような場合を除けば、「軽く扱われた」と受け止められて問題がこじれやすい傾向にあることを覚えておいてください。
②退職条件として最も重要なのは、退職日です。合意退職が成立したといえるためには、退職日が確定していることが必要ですし、退職勧奨を行う会社が最も合意したいのは、退職日のはずだからです。もちろん、①退職条件に関する問題社員の要望を踏まえて最終的な退職日を決定することにはなりますが、退職勧奨を開始するに先立ち、会社が希望する退職日を検討して一応の結論を出し、その結論を踏まえて、他の退職条件を検討することになります。一般論としては、同じ事案であれば、退職日が近い方が解決金の額が高くなりやすく、退職日が先の方が解決金の額が低くなりやすい傾向にあります。
②退職条件として2番目に重要なのは、退職に当たって支払われる一時金の額です。名称は、(特別)退職金、解決金、和解金など、様々なものがあり得ます。紛争解決の観点からは、その全体額が重要ですので、まずは、何円を支払うことになるのかの交渉を行います。退職に当たって支払う一時金の額について一応の合意が得られたら、その金額をそのまま解決金などの名目で支払うこととすることも多いですが、事前に当該問題社員の同意を得た上で、所得税等を源泉徴収した上で支払うこととすることもあります。所定の計算式から導かれた金額の一時金でなく、交渉の中で合意された「解決金100万円」といったものについては、紛争解決を重視して、源泉徴収なしで満額を振り込んで支払い、税務上の問題については会社の責任で対処するのが通常です。他方、所定の計算式に一定の条件を当てはめて算定された「退職金〇〇〇万2534円」といったものについては、所得税等を源泉徴収した上で支払うのが通常です。
②退職条件としては、ほかに、いわゆる「会社都合」扱いの退職かどうか、退職した時点で残っている年次有給休暇等をどのように扱うか、退職日までの出社義務・給与の取扱い、秘密保持、誹謗中傷禁止等が考えられますが、これらを退職合意書に記載するかはケースバイケースであり、明確に合意する必要がある場合に退職合意書に記載することになります。
「③ 協調性がない言動を何度注意指導しても全く反省せず、自分勝手な反論ばかりして、問題社員本人の担当職務のみならず周囲の職務遂行にも支障を生じさせたり、職場の雰囲気を悪化させる『確信犯』的な問題社員」は、いくら注意指導や懲戒処分をしても言動を改めようとしないことは珍しくありません。退職条件を提示しながら合意退職を提案しても、不合理に高い水準の退職条件を要求するなどして、合理的水準での合意退職に応じないこともあります。その場合、最終的には解雇を検討せざるを得ませんが、解雇に踏み切るに際し、特に重要なポイントについてお話しします。
まず、最初にすべきなのは、業務命令に従わないとか、不正行為を行ったといった別の明確な解雇事由が存在するかの確認です。単に「協調性がない」というだけで有効に解雇できる場面は限定的ですし、本当に問題のある「協調性がない」問題社員は、業務命令に従わないことが多く、不正行為を行うことも珍しくありませんので、まずは、業務命令に従わないとか、不正行為を行ったといった別の明確な解雇事由が存在するかを確認すべきなのです。業務命令違反や不正行為の程度が甚だしい場合には、特別な事情がない限り、有効に解雇を行うことができます。
他方、業務命令には従うし、不正行為も一切行っていないが、「協調性がない」問題社員の解雇はハードルが高めです。業務命令には従いますので、扱いづらいだけで、仕事をさせることはできると評価する余地があります。不正行為を行ってもいませんので、ルール無視の無法者というわけでもありません。協調性がなく、周りを不快にさせる自分勝手で嫌な社員だが、明確に命令すれば命令に従うし、不正行為は全く行っていないとなると、注意指導、懲戒処分、適正な人事評価とフィードバックを繰り返して、改善の機会を与えるのが基本的対応となります。その中で、業務命令違反、不正行為等、解雇に値する問題行動を行った場合に解雇に踏み切ることになります。業務命令違反、不正行為等がない場合であっても、従来の延長線上にないくらい協調性のなさが酷い言動があった場合は、解雇に踏み切ることもあり得ますが、実質的判断が必要となりますので、問題社員対応を中心業務としている弁護士に相談してリスクを管理しながら対応を検討する必要性が高い場面といえます。リスクの伴う難しい判断をしたくないのであれば、業務命令違反、不正行為等、解雇に値する問題行動があった時点で初めて解雇に踏み切るのが無難です。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎