労働問題91 問題社員を解雇したところ、労働者側から不当解雇との主張がなされたので、解雇を撤回して就労を命じたところ、労働者代理人から、東京高裁平成21年11月16日決定(判タ1323号267頁)を引用の上、解雇の撤回は認められないと主張され、しかも、民法536条2項により賃金請求権も失われないから賃金を払え、とも言われています。この場合の法律関係をどのように考えればよろしいでしょうか?
問題社員を解雇したところ、労働者側から不当解雇との主張がなされたので、解雇を撤回して就労を命じた場合に、労働者代理人から、東京高裁平成21年11月16日決定(判タ1323号267頁)を引用の上、解雇の撤回は認められないと主張され、しかも、民法536条2項により賃金請求権も失われないから賃金を払え、といった請求がなされることがあります。
使用者が職場復帰して仕事して下さいと言っているのに、解雇の撤回は認められないと主張して就労を拒絶した挙げ句、民法536条2項により賃金請求権も失われないなどと主張してくるのですから、開いた口がふさがらない話ですが、この場合の法律関係はどう考えればいいのでしょうか。
まず、「解雇の撤回は認められない。」という主張は、労働者の職場復帰を要求すべき立場にある労働者代理人の主張すべきことではないと思いますが、純粋に理屈だけで考えれば、間違いとは言えません。
解雇は使用者による一方的な意思表示ですから、解雇の意思表示が労働者に到達した時点で効力が発生しています。
効力が既に発生している以上、一方的な「撤回」を行うことはできず、その法的効力を遡及的に失わせるためには労働者の同意が必要となるというのが、論理的帰結です。
では、民法536条2項により賃金請求権が失われないという主張はどうでしょうか?
解雇が無効と判断された場合に民法536条2項により賃金請求権が失われないのは、労働者の就労義務が使用者の就労拒絶によって履行不能となっているからです。
使用者が、解雇は撤回して就労を命じた場合は、使用者による就労拒絶がなく、いわば労働者の都合で欠勤したのと同じ状況にありますから、民法536条2項の適用場面ではありません。
したがって、使用者が就労を命じているにもかかわらず、労働者がこれを拒絶して就労しない場合には、特段の事情がない限り民法536条2項は適用されず、対応する期間に対する賃金請求権は発生しないことになります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎