労働問題85 問題社員の解雇で苦労しないようにするためのポイントを教えて下さい。

 私の印象では、問題社員の解雇で苦労することになった原因のかなりの部分は、会社経営者が多忙であることなどから、採用活動にかける手間や費用を惜しんだり、人手不足の解消を優先させたりして、問題社員であるかもしれないと感じていながら、採用してしまったことにあります。
 確かに、問題を起こすような応募者だとは全く思わなかったのに、採用してみたら問題ばかり起こして困っているという事案もないわけではありません。
 事業を始めたばかりで経験が足りず、人を見る目がないといった特別の事情があるのであれば、問題社員とは夢にも思わなかったという話にも一定のリアリティがあります。
 しかし、弁護士に相談しなければならないほどの事案は、採用時にあまりいい印象を持たなかった応募者を採用してみたところ、やはり問題社員だったという事案が、かなりの割合を占めています。
 応募者からだまされて採用してしまったというより、問題があることには気づいていたものの、採用の手間や費用を惜しんだり、人手不足の解消を優先させたりして自分を偽り、問題がある人物を採用することを自分で正当化して採用してしまったという表現の方が適切な事案が多いのです。
 あまり深く考えていないと、「実際に使ってみなければ良い社員かどうか分からない。」といった一般論に説得力があるように聞こえるかもしれませんが、実際には「良くない社員だということは採用の時点から分かっていた。」ということが多いのです。
 経験豊富な会社経営者の目をごまかすことは、容易ではありません。
 会社経営者が、会社にとって魅力的な人物だと判断できれば採用する、魅力的だと思わなければ不採用にするといった、当たり前の方針を貫いていただければ、採用で失敗するリスクは相当下がるはずです。
 採用に値する積極的な理由がない場合には、不採用とすることをお勧めします。
 採用することに積極的な理由が必要なのであって、不採用とすることに積極的な理由が必要なわけではないのです。
 「類は友を呼ぶ。」ということわざのとおり、部下に採用を任せた場合、その部下は、仕事に関し、自分と似た価値観、ものの考え方を持った人物を採用する傾向にあります。
 会社経営者を中心とした結束が生命線の中小企業の場合は、会社経営者自らが採用活動に深く関わるべきと考えますが、仮に、部下の誰かに採用を任せることになった場合は、会社経営者の会社経営に協力的で人間性も優れている人物に採用を担当させるべきと考えます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 

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