労働問題72 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額を教えて下さい。
解雇が無効と判断された場合に、解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は、当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。
解雇当時の基本給等を基礎に算定されますが、各種手当、賞与を含めるか、解雇期間中の中間収入を控除するか、所得税等を控除するか等が問題となります。
通勤手当が実費保障的な性質を有する場合は、通勤手当について負担する必要はありません。
残業代は、時間外・休日・深夜に勤務して初めて発生するものですから、通常は負担する必要がありませんが、一定額の残業代が確実に支給されたと考えられる場合には、残業代についても支払を命じられる可能性があります。
賞与の支給金額が確定できない場合は、解雇が無効と判断されても支払を命じられませんが、支給金額が確定できる場合は、賞与についても支払が命じられることがあります。
解雇された社員に解雇期間中の中間収入(他の事業場で働いて得た収入)がある場合は、その収入があったのと同時期の解雇期間中の賃金のうち、同時期の平均賃金の6割(労基法26条)を超える部分についてのみ控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁第二小法廷昭和37年7月20日判決、あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。
中間収入の額が平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額を対象として利益額を控除することが許されることになります(あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決、いずみ福祉会事件最高裁第三小法廷平成18年3月28日判決)。
賃金から源泉徴収すべき所得税、控除すべき社会保険料については、これらを控除する前の賃金額の支払が命じられ、実際の賃金支払の際、所得税等を控除することになります。
仮処分で賃金相当額の仮払いが命じられ、仮払いをしていたとしても、判決では仮払金を差し引いてもらえません。
賃金の支払を命じる判決が確定した場合は、労働者代理人と連絡を取って、既払の仮払金の充当について調整する必要があります。
他方、賃金請求が認められなかった場合は、仮払金の返還を求めることになりますが、労働者が無資力となっていて、回収が困難なケースもあります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎