労働問題51 使用者に配転命令権限があるといえるためには、どのようなことが必要ですか?

 配転命令権限の有無は、当該労働契約の解釈により決せられるべき問題です。
 使用者に配転命令権限があるというためには、対象社員の個別的同意は必ずしも必要ではなく、就業規則の規定、入社時の包括的同意書があれば足りるのが通常であり、配転命令権限に関する就業規則の規定、包括的同意書が存在しない場合であっても、使用者に配転命令権限が付与されていると解釈できることもあります。
 一般論としては、正社員については使用者に広範な配転命令権限が認められる傾向にあり、パート、アルバイトについては、配転命令権限が制限される傾向にあります。
 実務上は、勤務地限定の合意の有無、職種限定の合意の有無が争点とされることが多くなっています。
 東亜ペイント事件最高裁第二小法廷昭和61年7月14日判決は、使用者の転勤命令権限に関し、「思うに、上告会社の労働協約及び就業規則には、上告会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に上告会社では、十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、被上告人は大学卒業資格の営業担当者として上告会社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされなかったという前記事情の下においては、上告会社は個別的同意なしに被上告人の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。」と判示しています。
 同最高裁判決が、労働者の個別同意なしに勤務場所を決定し、転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するという結論を出すに当たって考慮している要素を抽出すると、以下のとおりとなります。
 ① 転勤命令権限に関する労働協約及び就業規則の定め
 ② 営業所の数、転勤の実情
 ③ 応募資格、職種
 ④ 勤務地限定の合意の有無

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 

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