労働問題390 民法536条2項の適用を排除し平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨就業規則や労働契約に定めた場合には、平均賃金の60%の休業手当を支払えば足りますか。
民法536条2項は任意規定であり特約で排除することができますので、民法536条2項の適用を排除し平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨就業規則や労働契約に定めた場合には、理論的には平均賃金の60%の休業手当を支払えば足りるはずですが、裁判所は、就業規則等による民法536条2項の適用除外について慎重に判断する傾向にあります。
例えば、いすゞ自動車(雇止め)事件東京地裁平成24年4月16日判決は、休業手当に関し、就業規則に「臨時従業員が、会社の責に帰すべき事由により休業した場合には、会社は、休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」と定められている事案において、「被告は、本件休業に係る休業手当額を平均賃金の6割にすることについては、第1グループ原告らとの間の労働契約及び臨時従業員就業規則43条により、その旨の個別合意が存在し、この合意は本件休業の合理性を基礎付ける旨主張する。しかし、上記の規定は、労働基準法26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないから、被告の上記主張は、その前提を欠くというべきである。」 と判示しており、民法536条2項の適用除外を認めていません。
就業規則や労働契約により民法536条2項の適用を排除するためには、単に休業期間中は平均賃金の60%の休業手当を支払うとだけ就業規則や労働契約に規定するのではなく、民法536条2項の適用を排除する旨明確に規定しておくべきでしょう。もっとも、就業規則や労働契約に民法536条2項の適用を排除する旨明確に規定したとしても、就業規則の合理性や合意の効力が問題とされる可能性は残されています。