労働問題286 残業代(割増賃金)の支払を命じる判決を放置していたところ、強制執行されてしまいました。強制執行のため源泉所得税を源泉徴収できなかったのですから、源泉所得税を納付しなくても構いませんよね。
最高裁判所平成23年3月22日第三小法廷判決は、 所得税法28条1項に規定する給与等の支払をする者が、その支払を命ずる判決に基づく強制執行により賃金の回収を受ける場合であっても、源泉所得税の源泉徴収義務を負うと判断していますので、使用者は、強制執行のため源泉所得税を源泉徴収できなかった場合であっても、源泉所得税の源泉徴収義務を負い、源泉所得税を納付する必要があります。
強制執行されているため、残業代(割増賃金)を支払う際に源泉所得税を徴収できないのに源泉所得税を納付しなければならないのは不当だと言いたくなるかもしれませんが、上記最高裁判決が「上記の場合に、給与等の支払をする者がこれを支払う際に源泉所得税を徴収することができないことは、所論の指摘するとおりであるが、上記の者は、源泉所得税を納付したときには、法222条に基づき、徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を、その徴収をされるべき者に対して請求等することができるのであるから、所論の指摘するところは、上記解釈を左右するものではない。」と判示している以上やむを得ません。使用者としては、源泉所得税納付後、徴収をしていなかった源泉所得税に相当する金額を当該労働者に請求するほかないことになります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎