労働問題246 健康診断に要する時間は労基法上の労働時間に該当しますか。
一般健康診断(安衛法66条1項)に関し、昭和47年9月18日基発第602号は、「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払については、労働者一般に対して行われるいわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。」としています。
同通達は、一般健康診断は、労働者の一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないため、一般健康診断を受診しなくても本人の業務に具体的な支障が生じないことから、実質的に受診の義務付けがないものとして、その受診に要した時間の賃金を使用者が「当然には」負担する義務がないとしているものと考えられ、一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間には該当していないという理解を前提としているものと考えられます。同通達の理解を前提とすれば、一般健康診断に要する時間を労基法上の労働時間と考える必要はないことになります。
もっとも、懲戒処分の威嚇の下、業務命令により一般健康診断の受診を命じたような場合は、労働者が一般健康診断の受診を使用者から義務付けられたと言わざるを得ず、労基法上の労働時間に該当するとも考えられます。結局、一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間に該当するかどうかは、事案ごとに判断していくほかないものと思われます。
特殊健康診断(安衛法66条2項)に関し、昭和47年9月18日基発第602号は、「特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること。」としており、特殊健康診断に要する時間を労基法上の労働時間と捉えているように読めます。
特殊健康診断は、事業の遂行との関連性が強く、特殊健康診断を受診しなければ本人の業務に具体的な支障が生じることになりますので、業務命令により受診を命じたか否かにかかわらず、受診の義務付けがあるものとして、特殊健康診断の受診時間は労基法上の労働時間と評価できるケースが多いのではないかと思います。
労働者が、事業者が行う健康診断の受診を希望せず、他の医師等の行う健康診断を受診した場合(安衛法66条5項ただし書き)は、労働者は事業者の指揮監督下に置かれていないのが通常と考えられ、その受診時間は労基法上の労働時間には該当しないものと考えられます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎