労働問題191 就業規則の再雇用基準を満たす高年齢者が再雇用を希望したにもかかわらず再雇用しなかった場合、再雇用されたことになってしまうのでしょうか。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立するものですから(労契法6条)、会社が再雇用を承諾していない以上、労働契約は成立せず、再雇用を拒絶された高年齢者は、会社に対し、損害賠償請求する余地があるというにとどまるのが原則です。
ただし、津田電気計器事件最高裁平成24年11月29日第一小法廷判決は、定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し、東芝柳町工場事件最高裁判決、日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して、「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから、被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって、本件の前記事実関係等の下においては、前記の法の趣旨等に鑑み、上告人と被上告人との間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。
津田電気計器事件は、定年退職後の有期契約労働者(嘱託)について継続雇用しなかった事案であり、無期契約労働者を継続雇用しなかった事案とは異なりますが、無期契約労働者を継続雇用しなかった事案についても射程が及ぶ可能性があります。
理論的には相当無理をして結論を導いているようなところがありますが、就業規則の選定基準を満たしているにもかかわらず、再雇用しないというのは、再雇用制度の誤った運用をしていることになりますから、そのようなことがないよう運用を改める必要があることはいうまでもありません。
継続雇用基準を満たしているにもかかわらず、継続雇用を拒絶した場合、損害賠償請求を受けるリスクの他、継続雇用契約の成立が認められ、賃金請求が認められてしまうリスクがあることに留意する必要があります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎