労働問題167 労災保険給付がなされた場合、損害賠償額は減額されますか?
労働者またはその相続人が労災事故に起因して何らかの利益を得た場合、当該利益が損害の填補であることが明らかなときは、損害賠償額から控除されます。労災保険給付がなされた場合、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法の損害賠償の責を免れることになります(労基法84条2項類推)。
障害補償年金、遺族補償年金、障害年金、遺族年金等の年金給付については、支給を受けることが確定した年金給付額の限度で損益相殺が認められますが、未だ支給を受けることが確定していない将来の年金の額については損益相殺が認められません(最高裁平成5年3月24日大法廷判決参照)。
ただし、支給を受けることが確定していない将来の年金の額についても調整規定として労災保険法64条が置かれており、使用者は、前払一時金給付の最高限度額に相当する額の限度で損害賠償の履行をしないことができ、損害賠償の履行が猶予されている場合において、年金給付又は前払一時金給付の支給が行われた場合には、その給付額の限度で損害賠償責任を免れることができます。
労災保険法の休業特別支給金、障害特別支給金等の特別支給金は労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり、損害を填補する性質を有していないため、損益相殺の対象とすることができません(コック食品事件最高裁平成8年2月23日第二小法廷判決)。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎